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中川礎様、Dear baby,my blueの感想

[Dear baby,my blue]
http://2style.net/motoi/new/index.html

最初に言わせていただきたいことは、やはり音楽をやっていた人は音楽をやっていない人とはまったく違う作品を作るということです。
私なんて、ピアノをやっていたと言うのも恥ずかしいくらい中途半端なところでやめてしまいましたが、やはりピアノを題材にした友人の作品を読んでも、ピアノを弾いたことのある人と弾いたことのない人ではまったく違うタッチになるんですよね。
私が最初に読んで思ったことは、弦楽器を演奏したことのある人はまったく違うタッチで話を書くということです。
私の勘違いでないと思いますが、中川様はきっと弦楽器をやっていたんじゃあないかと思います。
演奏に専門用語が出てくるとかそんなのではありません、読んでいてその楽器をきっと触ったことのある人、音楽をやったことのある人の書く文章だな…そう思いました。

「Dear baby,my blue」は、中川様がおっしゃるように、音楽が舞台の話ではありません。
どちらかといえば音楽をバックミュージックに、人間の奏でる人生の音楽を聴くといったほうがいいかもしれません。
ちなみに私がバックミュージックに選んだのは古川展生さんの「時には母のない子のように」です。チェロというのと、哀愁漂う世界観、そして主人公であるかなでの人生とか、そういうものをイメージしてかけていたんですが、You Tubeにないか探してみたんですがうまく見つけられず仕舞いでした。
みなさん、古川さんのCDをツタヤで見つけたら是非借りてみてください。(どんな回し者だ)

それでは、肝心な感想のほうですが、実際にどこかにありそうな話だなと思いました。
かなではクールビューティーだけれども、それに嫌味がない性格をしていて、単純にクールを演じている女性とは違って中身のしっかり詰まった格好いい女性です。
最初ガラス窓を割ったときには、この女性、すげー怖いと思ったのですが(失礼)、知れば知るほど、彼女のことが好きになっていきました。
私のお気に入りは孝輔くんです。こんなさわやかな彼氏、私も欲しいわ! と思いました。他の人にしたってそうなのですが、この作中に出てくる人には嫌味なところがまったくありません。
作品を好きになれるかどうかの大切なところに、主人公たちを好きになれるかどうかって重要だと思うんですが、その点、彼らはみんなとても素敵な人たちだと思いました。
これはちょっと意外かもしれませんが、私はかなでのお父さんが好きです。浮気ばっかりしているゴルフクラブの社長さん。だけど娘の演奏会は聞き逃さないし、癌になったときですら嫌味のない性格。きっと彼の周りに集まった人たちはお金が目当てだったとしても、彼のことを嫌いになれなかったんじゃあないかと思います。
あおいちゃんは本当に普通のお嬢様という性格をしているのですが、これがまた素直な子で、たぶん孝輔くんはこういうあおいちゃんの素直な部分に惹かれたんじゃあないかと思います。お母さんも素敵な方ですよね。こういうお母さんやおばさんが知り合いにいたら私も大好きになってしまいそう。
そして忘れてはいけないのが、王子様こと笹井誠くん。
私はこういう駄目で弱い男に目がない悪趣味な女でして、でも誠くんはすごく性格のやさしい、繊細な男の人だと思いました。
どうしても文系の私からすれば、運動をやっている人はどこか無神経なところがあるというイメージがあるのですが、よくも悪くも、誠くんは繊細にできているんだなと思いました。

しかし、文中の
──あたしはずっと、死にたかったんだわ
の部分を読んだときには胸がずきりとしました。
しにたいしにたい言う登場人物なんて、小説を読めばごまんといるわけですが、なんというのでしょうか、この作品はとても「リアル」にできているんですよね。
かなでの生の感情が篭っていて、胸がしめつけられるような思いでした。

全体をとおして言えることは、後味がとてもいい作品ということです。
過剰に不幸なわけでも、キャラを愛しすぎてハッピーエンドしか用意できなかった話でもありません。
人生の起伏や、人間同士の織り成す感情、いいことがあっても、悪いことがあっても、結局人間は生きていかなくちゃいけなくて、何かに打ちのめされても、癒えない傷があっても、きっと最後は前を向くのだろう、そういう終わりかたでした。

かなでさんのチェロが聞いてみたかったです。
プロの演奏とは違う人生の深みの染み渡った演奏をしてくれそうな気がしました。

最後ですが、とても素敵な作品を拝読させていただきました。
ありがとうございます!

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