車輪の下 「車輪の下」と聞くと、Mさんも私もニノさんの言葉を思い出します。 「デザイン科はみんな車輪の下にいるんだ」 デザイン科は〆切に追われる過酷な学校だと知っていましたが、よもやそこまでニノさんが追い詰められていたとはと思ったニノ名言集に加えたい一言です。 そんな車輪の下はくらーいお話だと思っていたのですが(というのも、主人公が最後に死んじゃうことを知っていたから)非常に詩的な表現豊かな、綺麗な情景が浮かんでくるようなお話でした。 ハンスがお魚を釣っているところも、みんなといっしょに走っているところも、散歩して鳥の声を聞いているところも、ハイルナーとキスしているシーンも、めまいを起こして立てずにいるシーンも、最後の死ぬ間際のシーンですら、とても綺麗です。 ほんとうはハンスは、少なくともリュッツェラー・ホーフか、サフラン原まで大きな散歩をするつもりであった。が、いま彼はコケモモを食べながら、ものうげに意外のおももちで宙を見た。こんなに疲れたのが、われながら不思議に思われだした。以前は三時間や四時間歩いてもなんでもなかった。彼は元気を奮い起こして、相当の距離を歩いてやろうと決心した。そして数歩歩いた。だが、そこでもう、いつのまにかコケの上に横になって休んでいた。彼は寝そべったまま、目を細くして、幹やこずえのあいだや緑色の地面を漫然と見た。この空気のなんとけだるいことだろう! 始終こんな感じの文章です。ヘッセの詩集が欲しくなりました。 このお話で一番のお気に入りはハイルナーで、次がハンスというふたりの美少年くんなのですが(腐女子はどうやったってそうなるよ)、ハイルナーのこの自己陶酔っぷりとたまにくる憂鬱体質っぷりがなんとも詩人らしくて私は大好きなんですよね。 どこからこんな萌える少年を思いついたんだろうと思ったら、ヘッセの最初の紹介文に「『詩人になるか、でなければ何もやりたくない』と神学校を脱走」とか書いてあるんですよ。 ハイルナーはおまえか!(笑) ハイルナーもヘッセも一気に好きになった次第です。車輪の下は間違いなくお気に入りの一冊にいれていい本だと思います。 人生に一度は読むことをおすすめしたい本です。 PR